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パトロンの意味

昔から料理が好きで、卒業を控えて就職はどうしようか?と考えた時に真っ先に浮かんだのは料理人だった。
ただ、調理師免許は取ったものの、料理人がガテン系と言うのは失礼なのだけど、就職先には安定感を優先してしまった。
給料もそこそこだし仕事にも不満はないのだが、やりがいと言う意味では全く働き甲斐のない会社だ。ちょっと自分の選択は後悔している。
その分、余暇は料理に励んでいる。これまでの経験にない味を生み出せた時はちょっとした喜びである。
誰かパトロンにでもなってくれて、僕に料理屋を持たせてくれないかなあ、と思ったりもする。しかしまあ、趣味程度に収めたおいた方がこういうものは楽しめるのかもしれない。
そんな時、僕は出会い系サイトを通じて、ある女の子と知り合いになった。共通の話題は料理である。彼女も料理が好きだったのだ。
意気投合した僕たちは、お互いの家に通い合って、料理を作っては批評し合う仲になった。
彼女もまた平凡なOLなのだが、料理屋を持ちたいなあ、なんて言っていた。
僕は、冗談っぽくパトロンを探してみれば?なんて言ってみた。パトロンって何?と聞くので、パトロンの意味を教えてあげた。
援助してくれる人
「いやいや、私の料理を気に入って、店を持たせてあげようなんてお金持ちのおじさんが現れるなんて、マンガじゃないんだから」
と、彼女は謙遜した。
ただ、彼女の料理の腕は確かだ。味だけではなく創作料理も工夫があって、見た目も楽しめる。
僕にお金があれば彼女のパトロンになってもいいくらいなのだが、そんなお金があれば自分で店を持つに決まっている。そして、それは彼女も同様だった。
その時、彼女が天才的な閃きをした。
「お互いがお互いのパトロンになればいいんじゃないか?」
二つの店舗を持つのは無理がある。だが、一つの店舗ならばお互いの貯金を合わせれば開業も不可能ではない。二人で経営すれば人件費も浮くし、料理のレパートリーも増える。
話はとんとん拍子に進み、それから3年後、僕たちは飲食店をオープンした。お互いがお互いのパトロンになって店を持ったのだ。
ところで、パトロンの意味って何だっけ?と、僕の横で鍋を振る彼女に聞いてみた。
「好きな人に投資するってことだよね」
僕の奥さんは、そう言って笑った。
裏垢女子
割り切り